creation/cr_multichannel
Multi channel audio editting
マルチチャンネルオーディオ編集
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作品創作における、DAWを使用したマルチチャンネルオーディオの編集に付いて記してみます。
マルチチャンネルオーディオによる作品の上演は、一般的に利用されている、5.1chや7.1chと言ったサラウンドシステムのように、コンサート等のライブ空間をよりリアルにするためのシステムとは異なり、音楽作品そのものとして、より多彩な音響空間の生成を行います。つまり、音楽表現を空間にまで積極的に広げたものと言えます。音響空間を創造するためには多数のスピーカーを使用する事となります。
残響や位相などの要素を除いて考えた時、ステレオではスピーカーの二点間を結ぶ線上に音が定位しますが、スピーカーを3本使用するだけで、マルチチャンネルオーディオによる表現が可能で、音響による空間的な表現がある程度実現出来るようになります。
出来る限り多数のスピーカーを使って空間を作ればそれだけ多彩な表現が可能になりそうですが、システムの完成度や空間表現の構成によっては、無駄な労力ばかりが先行して、期待する表現にまで至らない事もあります。出力のみならず、入力されるソースのチャンネルも大切です。
リアルな空間のシミュレーションでは無く、表現としての音響空間ですから、ソースが1チャンネルであっても、スピーカーとソースが同数であっても良い訳ですし、一般的なアクースモニウムのように、2チャンネルのソースを多くのペア・スピーカーで出力して空間を構成しても良いのです。基本的には、表現者の意図を具現化出来るシステムを選択することになりますが、ここでは、最近、一般的になりつつある、8チャンネル音響を基にして進めて行きます。
8チャンネル音響の場合には、スピーカーをキューブ状にする場合と、サークル状にする場合とがありますが、ここでは、私自身が日常的に行っている、サークル状の8チャンネルを扱っています。
スピーカーの配置
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スピーカー8本をサークル状に配置する場合、それぞれのスピーカーが等間隔で円周上に並んでいるとも、ステレオの4セットが前後左右に配置されているとも考える事が出来るため、空間が円形であっても四角であっても、相性が良いセッティングと言えます。
利便性から、8本のスピーカーには番号を振った方が良いと思いますが、私達は、フロントの左スピーカーを1番として右回りに振って行きます。
音のローカライズ
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基本的には、スピーカーの配置を前提にして作品創作を行います。当然、創作中に閃いたアイディア等で配置を変更する事もあります。 DAWでマルチチャンネルオーディオを編集する場合、ステレオに制作する場合と比較して、トラック数は大変多くなります。
8チャンネルのマルチでは、8トラック毎にグループ化したり、色分けすると使い勝手が良くなります。また、編集に入る前には、最終的に8チャンネルに書き出す事を想定して、各トラックのルーティング設定を行っておく必要もあると思います。
DAWソフトは、Pro tools、Nuendo、Cubase等、様々な製品がありますが、お財布とも相談しつつある程度の物を使った方が良いでしょう。次のイメージは、Cubaseを使って編集した時。のウィンドウです。但し、Cubaseの場合にはマルチトラックファイル(一つのファイルに多チャンネル音声を録音したもの)として書き出す事が出来ませんので注意して下さい。
こうしたウィンドウのパンや、ミキサーウィンドウ等から調整すれば、音の定位を設定出来ますし、他のツールを利用して8チャンネルによる音の定位を設定する事も可能です。
マルチチャンネルオーディオ素材
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マルチチャンネルオーディオ用の素材としては、そもそも、8チャンネルで録音した素材を使う事もあれば、MaxMSP等を使ってアルゴリズムで各チャンネルに音声を割り振ったり、モノラルやステレオのソースを8チャンネルの定位に移行する等、様々な方法があります。
この下のイメージは、自作した8チャンネル録音用のマイクホルダーを使って録音している状況です。こうして録音した8チャンネルのソースをDAW上に張り込んでいきます。
MaxMSP等で作成する方法もあります。
直接8チャンネル用に書き出すPatchを組んだり、モノラルのソースを8チャンネル用として書き出したり、音の定位だけで無く、様々な要素も加えて書き出すなど、多様な方法での制作が出来ます。
ピッチシフトを使ってハーモナイズするためのPatchです。
ツールによる音のローカライズ
- モノラルやステレオのソースを8チャンネルに定位する方法として、私の場合には、MaxMSPでPatchを組んで使っています。次のイメージで分かるように、マウスやジョイスティックを使って音の定位を変更するようなもので、このPatch上で簡単なスクリプトを書いてオートメーションで定位を変更出来るようにも組んであります。ここで作った8チャンネルのソースをDAWに張り込みます。
DAW上の制作用では無いですが、ライブ用として、同時に8つのソースをジョイスティックで演奏するためのPatchも組んであります。
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このようにして、8チャンネルオーディオ用の音源を完成させますが、制作の段階で使用していた8チャンネルの環境と、会場でのスピーカーの配置、距離、音量等の違いから、思い通りのサウンドに仕上げる事は意外に大変です。
現場での調整には充分な時間を見ておく事も必要ですし、調整のし易いシステムを築いておくことも大切なようです。